#3 ブラックの片鱗

「営業推進部営業推進課長付」

 

これはどこだ?それに勤務地が載っていない。

僕と同様の紙を受け取った人が意外にも多くいたようで、皆首をかしげていた。

人事からの説明を待ち、しんとした研修室内。

そして人事より説明があった。

 

「今部署と勤務地が書いてある人はその内容通りです」

「営業推進部と記載されている人は…」

 

「配属先がまだ決まっていません」

 

!?

 

話が違う。

 

人事課長から聞いている内容は「10日間の研修を持って配属を決める」というもので、今聞いた話は寝耳に水である。

ざわざわする研修室内の喧噪はさておき、更に人事課長はこう続けた。

「今日配属が決まったのは、本社スタッフと言われる人事・総務・財務等々や、一般職(営業の補助的な仕事で一般的に給料が低い)の社員で、営業に配属が決まった皆さんにはここであと3ヵ月間、研修を受けてもらいます」

「とは言っても今までの全体研修のような研修ではなく、もう少し専門性の高い、営業に直接関りのある商品知識や機械設備などについてです」

「3ヵ月の研修が終わったのち、勤務地及び部署が決まります。それまでゆめゆめ気を抜かぬよう、しっかりと励んで下さい。以上」

 

人事課長の耳を疑う発表があった後、すぐさま課長は去っていった。まるで聞く耳は持たぬという意思表示をするかのように。

そうなると当然、研修の講師をしていた若手人事は新入社員たちに詰め寄られることになった。

「配属が決まるというのは嘘だったのですか?」

「3ヵ月なんで聞いていないです」

「どうしてこうなったのか説明してください」

 

若手人事担当は困りながらも真摯に説明した。

回答は概ねこういった趣旨だった。

・会社の業績が悪く、全国の現場に微妙な支障が出ている。

・準備していた人員配置が予想以上に足りてしまっている状態である。

・営業は新入社員を育てている場合ではなく、受け入れを待ってほしいという声が多い。

 

この場で説明する若手人事も、きっと課長からこの台本を読むよう予め頼まれていたのだろう、重苦しい顔で「しょうがないんだ。こんな事態になり申し訳ない」と繰り返していた。