#29 運命の会社

様々な会社の転職面接を受ける日々を送り1ヵ月、2ヵ月が経った。
そして遂に運命の会社に出会うことになった。

いつものごとく転職サイトを見ていると、僕の見覚えのある会社名と生産管理という文字を見つけた。
その会社は食器や日用品を扱う会社で、日本ではそこそこ有名な会社であった。あれ?たしかこの食器、自分も持っていたよな?そんなことを考え、食器棚を開けると、いくつかのアイテムが見つかった。

あ、やっぱり。結構有名な会社だよな。これもなにかの縁だ、エントリーしてみよう。
後日、早速この会社から返答があった。ぜひ一度お会いしたいので、本社までお越しください。と、会社の印象も悪くなかった。

そして面接の日。本社を尋ねると、そこには比較的綺麗な建物があり、看板に大きく社名が書かれた会社が現れた。どうやらまるごと一棟がこの会社の持ち物のようである。
上層階の面接室に通されると、50代くらいの男女が現れた。

女性は一見すると調子の良い事務員さんのような印象。この人が面接をするってことはそれなりの役職なのだろうか?もうひとりはメガネを掛けた小柄な男性。こちらも一見するとおえらいさんには見えない。男女お互いがタメ口で話している所を見ると、年齢が近い課長くらいのポジションと見受けられた。

ここではドキドキクイズや筆記試験は無く、終始穏やかな雰囲気で面接は進んだ。
女性が僕の現在勤めている会社を知っているようで、この会社ってさ、結構すごいところよね?と言うと、男性は、ここで5年も経験を積んで、しっかりした経歴だね、と僕のことを評価してくれた。
また、僕は知る人ぞ知るこの会社の食器をいくつか所持しており、それにまつわるエピソードなどを披露すると、先方も喜んでいることが分かった。

面接の最後にはこんな質問があったことを覚えている。
今の年収を考えると、うちの会社はだいぶ下がるけど大丈夫?

そう、これは冗談ではなく本当に下がるのである。今の会社は20代後半でボーナス含め年収500万数十万円くらいをもらっていたが、この会社は300万円プラスボーナスだという。
もちろんこんなに下がるのは嫌なのだが、生活できないレベルではない。なにより自分の心のためにも一刻も早く転職しなければならない。
「はい、大丈夫です。今結婚を考えている人がいるのですが、今の会社だと頻繁に全国転勤の可能性があり、安定した拠点での生活ができないんです。今優先すべきはお金ではなく東京という場所だと考えています」
僕はギリギリ嘘ではない範囲で転職理由を伝えた。実際に結婚を考えていたのは事実だし、なによりこの会社は全国転勤が無いことも特徴で、東京を拠点に生活がしたい僕には願ったり叶ったりであった。