#4 始まった寮生活

僕からすれば若手人事になんの落ち度もない。むしろきちんと説明してくれたと思った。

が、人事課長の態度はいかがなものか?

人事を代表してここに立った以上、自らの口で説明してくれれば良いではないか。

なぜ若手社員に言わせるのか?課長自身はついに一言も謝ることは無かった。

これがこの会社の最初の不義理であり、ブラック企業の一端を垣間見ることになった。

 

3ヵ月の延長戦が始まった。

まず僕たちがしたことは引越である。

さすがにいつまでもビジネスホテルに大量の新入社員を泊めておくわけにもいかず、若手社員用の会社寮に引越をすることになった。

 

ここで僕の会社について少し説明しておきたい。

会社への影響を考慮し、予め断っておくが、今から書くことは真実ではない。

だが、なるべく僕の会社の業務内容に近しい業態の会社を書き、読者のみんなが想像しやすいようにしておくことにしたい。と断った上で、僕の会社は東北にある金属会社である。

 

会社の仕事の幅は広く、世界各地から金属類を集め、それぞれの金属を加工する炉にぶち込む。炉にぶち込んだ金属を、得意先が希望する球体や棒状といった形に加工し、トラックいっぱいに詰め、各得意先に出荷する。

加工する金属は鉄や銅、すずなど幅広く、会社の花形部門は金取引部。

不人気部署はスクラップ鉄取引部である。スクラップ鉄はいわゆる産廃業者やスクラップ工場などから素材を集め、それをスクラップ鉄の加工をする得意先へ安価で販売する。

つまりゴミを買い取ったものを加工して、少しだけ綺麗にしてまた売りするようなイメージだ。イメージ通り取引先にはガラの悪い企業が多く、特に大阪の得意先にはケチな購買部が多く苦労していると、どこの現場に言ってもそう言われてきた。

 

東北本社工場の近くに会社の敷地があり、その敷地内には何棟も寮が建っている。

それぞれの寮には「ゴールド」「シルバー」「ブロンズ」という名前がついており、僕が入居することになったのは「アイアン」という名前の寮であった。

 

「アイアンか…僕が一番行きたくない部署だ。縁起が悪い」

 

一つ一つの寮は古く、かつ大きい寮だと10階建てとなっており、東北の田舎町の界隈では一番高い建物としてよく目立っていた。

僕に与えられた部屋は8階の部屋で、6~8畳ほどであろうか、部屋に入ると備え付けの机と、無機質なベッドが置かれている以外何もない。室内は暗く、陰湿である。

部屋の外には和式トイレがあり、1階には大浴場があった。全体的にあまり綺麗とは言えないが、ギリギリ住めなくもない。そんな感想だ。

寮費がタダなことが唯一の救いであった。

ほどなくして気づくことになるが、僕が住むことになった部屋だが、一つ一つの部屋の壁がものすごく薄いのだ。

そしてやっかいな隣人が住んでいることに気づくのも時間の問題であった。