#32 ダメ社員をプロデュース

僕は人生で初めて就職した会社を5年半で退職した。
精神的に参ってしまい、退職を決意して3ヵ月ほどで逃げるように会社を去った。
会社にうまく適合できず、上司からの事実上退職勧告とも言えるパワハラを受け、ボロボロであった。

僕は初めての会社で完膚なきまでに打ちのめされた。
会社にひどいところはあったものの、結局は自分の力のなさがそうさせたのだ。
5年半で一度もまともな成績を取ったことのない僕には存在価値がなかったのだ。

藁にもすがる思いで僕の人生2社目となる会社に入社した。
そして僕はこの2社目で劇的な変化を遂げることになる、会社の中枢社員への道を。

今日の僕の仕事観を構成するすべてはここで培われた。
最速で主任に昇格し、難関公務員試験の主任枠(倍率約10倍)に合格。
公務員3年目の査定から主任B評価をもらいはじめ、ワーキンググループの中心メンバーになった。
その結果、ワークライフバランスを保ちながら年収600万円超の安定した生活を手に入れることになった。(なんかウェブ広告みたい笑)

突然ですが、皆さんは『野ブタをプロデュース』という小説をご存じでしょうか?

大学生のとき、大学教授が本を普段読まない学生向けに勧めていて、とても読みやすいから、最初の一冊にピッタリだと語っていた。
僕は大学生のたしなみとして、読書の一つでもしてみるかと読んでみたのであるが、これがなかなか面白く、僕が読書の世界にどっぷりと足を踏み入れるきっかけとなった小説である。時間がある方は一度読んでみてほしい。

ドラマ化もされており、某ジャニーズの人気俳優が出演したことでも有名な作品である。余談ではあるが、ドラマ版の野ブタは女性だが、小説版の野ブタは男性ということは意外と知られていない。

内容をざっくりと言うとこうだ。

主人公の高校生がいじめられっ子の学生「野ブタ」の学校生活をプロデュースし、やがて野ブタは学校随一の人気者にのし上げるというストーリーだ。

ネタバレになるのだが、最後、主人公は転校した学校で「自分自身をプロデュースするぞ」という覚悟を口にして物語が終わる。

僕はこの本のラストになぞらえて、自分をセルフプロデュースすることとした。
そして、ここで自分がこうなりたいと思う人物像に設定したのが、大阪時代の先輩社員であった長宗我部先輩だったのだ。

#31 バイバイ!ブラック企業

「やっと決まったか」

名探偵コナンであれば、会議室にある灰皿が凶器となり、間違いなく上司は被害者になっていたことであろう。

八木沼はこういうやつであった。あくまで自分は何でも知っていると。少しでも相手の優位に立っていると思わせる絶妙なネチャアとした言葉が得意なのだ。
この発言で、やはり八木沼が僕を潰しに掛かっていたことが明白に露見した。もう隠す必要も無いと。

「で、どこの会社?」

僕は一言、あなたには言いたくありません、と言った。
「それは困る。こっちにも人事に報告する義務があるんだよ」

僕は内心ガチギレである。八木沼は絶対に赦さないリストのプラチナ殿堂入りを果たした。
大阪の課長はなんだかんだ、やり方がうまく、僕は当時は傷ついたものの、怨恨をずっと残しているわけではない。が、八木沼は別だ。

だったら人事に直接言ってやるわい!と言いたくなる衝動にかられたが、僕はこの頃にはもう会社を何のしこりもなく辞めることだけに注力していた。
相手からの嫌味な言葉だけ受け取って、相手に揚げ足を取られるような事は何一つ残さず、クールに去る。

僕は結局転職先の会社名を告げ、退職の日程などを調整することとした。

ちなみに後学のためにお伝えしておくと、今の日本において、会社の制度は従業員に優位にできているそうだ。正当な理由なき解雇をしても、会社は裁判で負ける可能性が高いため、狙いを定めた社員にはありとあらゆる手で嫌がらせをしてくる会社がある。まさに僕のいた会社がソレだった。(こちらも証拠を持って裁判すれば結局は同じことだと思うが…)

全国のパワハラ上司の皆さん、そう、そこのあなた!これだけは覚えておいてください。被害者はあなた達の言動を一生忘れません。少なくとも僕は一生忘れません。自分の背中に一生気をつける覚悟で言葉を発してくださいね。

辞める日が決まってからというもの、僕は心の平静を徐々に取り戻していった。さすがに転職が決まってからは八木沼の執拗な攻撃は劇的に減った。
僕の得意先は八木沼が引き継ぐことになったため、僕が着任してからほぼ何も進展のないペラペラな引き継ぎをして、得意先周りをして、あっという間に終わりを迎えた。
正直、退職の日のことはほとんど覚えていない。立つ鳥跡を濁さず。僕はただ静かに会社を去った。

#30 転職決定

わかりました、合否については追って連絡します!
面接が終わった。終始和やかな雰囲気で終われた。先方も僕の経歴を買ってくれていたし、僕も今までの会社からするとだいぶ好印象だった。

いけるかもしれない!
相手方の表情や面接内容を考えると、落ちている要素が見当たらなかった。
そしてその予感は見事当たり、面接を終え自宅に帰り、しばらくすると電話が鳴った。

緊張で少し上ずった声で電話に出る。どうやら先程の面接官の男性であった。
「先程の面接をさせていただいた結果、ぜひうちで一緒に仕事をしてもらいたいと思います」

キタ!!!
僕はガッツポーズをした!

「それで、入社のご意向はいかがでしょうか?」

その場で即答したいと思ったが、ひとまずぐっとこらえた。少しだけお時間をいただいても良いでしょうか?先方はもちろん構いませんと言ってくれた。

彼女にも念のため確認をしておこう。
その場ですぐに彼女に電話をすると、彼女も合格に安堵して、僕の転職を応援してくれた。

今、すぐに返事をすべきか、明日、返事をすべきか?明日電話したところで合格という状況は変わらない。だが、せっかくつかんだチャンス、なにかに水を刺されてはたまらない。僕は彼女との電話を切るとすぐに返事の電話をすることにした。

これからよろしくお願いします!
先方も満足げに「こちらこそよろしくお願いします」と返してくれた。こうして無事、数ヶ月に渡る転職活動が終わった。

翌日、この件をすぐに八木沼に報告することになった。もう八木沼とは一言も喋りたくなかったが、一応上司という建前上報告せざるを得ないと判断した。

課長、少しお時間いただいてもよろしいでしょうか?
会議室に入り、少々の緊張とカラカラの喉で転職先が決まったことを伝えた。すると、僕は人生で聞いたこともないような、唖然や呆然を通り越してはらわたが煮え返るような言葉を浴びせられた。


「やっと決まったか」ニヤッ

#29 運命の会社

様々な会社の転職面接を受ける日々を送り1ヵ月、2ヵ月が経った。
そして遂に運命の会社に出会うことになった。

いつものごとく転職サイトを見ていると、僕の見覚えのある会社名と生産管理という文字を見つけた。
その会社は食器や日用品を扱う会社で、日本ではそこそこ有名な会社であった。あれ?たしかこの食器、自分も持っていたよな?そんなことを考え、食器棚を開けると、いくつかのアイテムが見つかった。

あ、やっぱり。結構有名な会社だよな。これもなにかの縁だ、エントリーしてみよう。
後日、早速この会社から返答があった。ぜひ一度お会いしたいので、本社までお越しください。と、会社の印象も悪くなかった。

そして面接の日。本社を尋ねると、そこには比較的綺麗な建物があり、看板に大きく社名が書かれた会社が現れた。どうやらまるごと一棟がこの会社の持ち物のようである。
上層階の面接室に通されると、50代くらいの男女が現れた。

女性は一見すると調子の良い事務員さんのような印象。この人が面接をするってことはそれなりの役職なのだろうか?もうひとりはメガネを掛けた小柄な男性。こちらも一見するとおえらいさんには見えない。男女お互いがタメ口で話している所を見ると、年齢が近い課長くらいのポジションと見受けられた。

ここではドキドキクイズや筆記試験は無く、終始穏やかな雰囲気で面接は進んだ。
女性が僕の現在勤めている会社を知っているようで、この会社ってさ、結構すごいところよね?と言うと、男性は、ここで5年も経験を積んで、しっかりした経歴だね、と僕のことを評価してくれた。
また、僕は知る人ぞ知るこの会社の食器をいくつか所持しており、それにまつわるエピソードなどを披露すると、先方も喜んでいることが分かった。

面接の最後にはこんな質問があったことを覚えている。
今の年収を考えると、うちの会社はだいぶ下がるけど大丈夫?

そう、これは冗談ではなく本当に下がるのである。今の会社は20代後半でボーナス含め年収500万数十万円くらいをもらっていたが、この会社は300万円プラスボーナスだという。
もちろんこんなに下がるのは嫌なのだが、生活できないレベルではない。なにより自分の心のためにも一刻も早く転職しなければならない。
「はい、大丈夫です。今結婚を考えている人がいるのですが、今の会社だと頻繁に全国転勤の可能性があり、安定した拠点での生活ができないんです。今優先すべきはお金ではなく東京という場所だと考えています」
僕はギリギリ嘘ではない範囲で転職理由を伝えた。実際に結婚を考えていたのは事実だし、なによりこの会社は全国転勤が無いことも特徴で、東京を拠点に生活がしたい僕には願ったり叶ったりであった。

#28 転職活動の日々2

ユニフォームの生産会社の面接日、会社に到着するとミーティングルームに通された。

では、まず面接を受ける前に筆記試験を受けてもらいます。
筆記試験?マジ?時事問題でも出るのか?と訝しがるが淡々と説明は進む。
20分したら戻ってきますので、それまでに完成させてください。よーい、はじめ!

おいおいおい、こちらは面接を受けるだけと聞いていたのに、いきなり筆記試験とは…問題を見ると、服飾業界のことがいくつかと、この会社の社長や事業について答える問題が並んでいた。
いや、分かるわけないだろ。こちとら面接が受けられるところを片っ端から受けてるだけなんだから、名もなき会社の沿革やら社長やら答えられるわけない。

周囲を見渡すと妙なことに気づく。試験とうたっている割には試験官はいない。それどころか密室で僕一人だから、カンニングはし放題である。

どうする??
誰も見てないぞ?
いや、監視カメラがあって見張られている??

僕の本性を見透かすための試験なのか?
どこかでカンニングするシーンを皆で見ているんじゃないか?
しかしカンニング中に社員が戻ってきたら気まずい。というか落ちる。。
それに名もなき会社の社長の名前を書けるのも普通に考えたらおかしい。これは罠に違いない。

ありとあらゆる感情が邪魔し、試験にはとても集中できる状態では無かった。ああぁ、どうすれば良い?どうすれば…

むむむむ。。。

よし!

ならばカンニングだ!!!笑

そもそもカンニングしないとほぼほぼ0点であることは間違いなく、結果的に少しでも点数を取ってといたほうが良い、という結論に達した。
いつ戻るかとわからない社員に怯えながら、必死にスマホで検索しては回答を書き込む。しかし、色々なことが頭に浮かび、カンニングに全く集中できない。
そして中途半端なカンニングをした解答用紙を提出することになった。正直、その後の面接でどんな話をしたかなど全く覚えていない。
結果は思った通り不合格。カンニングせず気持ちよく0点を取っていた方が実は受かっていたかもしれない。何が正解だったのかはこの会社のみぞ知る…。

#27 転職活動の日々1

僕の探している生産管理の仕事自体はそんなに多くないため、仕事内容が許容範囲であればエントリー、エントリーが通れば面接という日々を送った。このときは更に切羽詰まっていたため、年収欄を意識することは無くなっていった。(このなりふり構わぬ転職活動が公務員転職へのトリガーになったのだから人生は本当にわからないものである)

それからは徐々にエントリーが通るようになり、午前は仕事、午後は転職活動のような日々が少しだけ続いた。

ここで、転職活動の中で印象的だった企業がいくつかあるので紹介してみたい。

まず1つ目、会社は靴の販売会社であった。面接は一対一で、相手方は社会を身一つで渡り歩いてきたような風格が漂う女性が出てきた。

このポジションに採用されれば、基本私とペアを組み活動していくことになります。

会社は少数精鋭らしく、バディを組んで活動するという。女性はそれなりのポジションを任されているらしく、ほのかにブラックな雰囲気を感じた。僕は屈強そうな女性の圧に押され、若干テンパりつつも面接をこなす。

では、ここで課題を出します。と、やぶから棒にテストが始まった!
今日、百貨店に納める予定であった靴が事故で届かないことが確定しました。あなたはこれからどういう対応でそのピンチを乗り切りますか?

えええぇぇ!いきなりこちらの予想を裏切るドキドキクイズが始まった。

僕の人生単位でもクイズのような試験は久しぶりで、かなりテンパったことは覚えている。
そもそもこの会社の倉庫がどこで、どういう生産体制かもわからないし、運ぶのは何トントラックだろう?見当違いの答えをしたらものすごく恥ずかしいな、と自分の知識が邪魔をして答えがなかなか出てこない。

「えー、同じ靴が置いてある他のデパートを片っ端からリストアップし…在庫の確保を依頼します。」

ぼくはモゴモゴと辛うじて出たアイデアを口にする。回答までもかなりの時間を費やした。
その後、女性は淡々と面接を進め、ようやく終わった。結果は聞かずとも不合格と分かった。

しかし、入社できたところでゴリゴリに圧が強い上司になるのは間違いなく、むしろテンパって不合格になって正解だったと思う。(負け惜しみ笑)

お次は転職活動の中で印象的だった企業の二つ目。ユニフォームの生産・販売会社での転職面接を紹介したい。

#26 転職エージェントについて

転職を決意してからというものの、僕は早速転職戦略を立てることとした。戦略と言っても、今の会社から抜け出すことが最優先事項であったため、今になって考えれば転職先を吟味する時間が圧倒的に足りておらず、ずさんなものであった。

まずは転職エージェントを頼ることとした。エージェントといえばここ、と名前がすぐに出てくるくらい有名なエージェントである。
早速ネットで申し入れ、エージェントと会う約束を取り付ける。そしてすぐに約束の日が来た。

冒頭、これまでの職歴などの聞き取り調査があり、その後、志望する会社の方針を決める。僕の転職の軸は苦手な営業ではなく、曲がりなりにも自分が仕事をこなすことができた「生産管理」を主体に考えることにした。

また、これは少し予想外であったが、あなたの経歴ならコンサルになるのも一つの手だと提案されたこと。ただし、僕の中のコンサルのイメージは、個人でやることが主で、収入にムラがありそう。なんとなく胡散臭いと考えていたため、その軸は遠慮することとした。
このように、自分が考えてもいないような業界とのマッチングも考えてくれるため、一人で転職活動するよりも、思考の幅が増えるのは悪くない。

面談を終えて数日後、メールで何件かの生産管理の仕事を紹介された。通常の転職サイトでは出てこないような、比較的大手の生産管理の仕事が何件か載っていた。条件などを見て数件の企業に履歴書や職務経歴書を送り、エントリーすることになった。

しかし、結果は散々なものであった。

エージェント経由でエントリーした企業にはことごとくスルーされ、ついぞ一件も返信すらもらえなかった。可でも否でもなく、無。

企業の心ない対応に胸を痛めた。せめて不合格ですというお祈りメールでも来れば諦めがつくものの、メールが来ないので合否すら分からない。

再度エージェントに別の求人を求めたが、エージェントからの返信すら来なくなってしまった。
理由は今日までわからないのだが、エージェントからすれば僕はチャンスを一件もヒットすることのできないボンクラと捉えたのか、時間のムダと判断し、次なる人材を探すため、僕を切ったのかもしれない。

やり場の無い怒りを、無視した企業とエージェントに向けながら、もう二度とエージェントには頼るまいと方針転換を迫られることになった。
結局のところ、自分のペースで、検索条件をじっくり吟味できる転職サイトに登録することになった。