#2 配属決定?
「起きろ!!!!!!!!!!」
おそらくは人事部長の声であった。
会場中に響く声が自分に向けられていることに気が付くのに、そう長くは掛からなかった。そう、僕はやってしまった。
公衆の面前で、後後々世まで語り継ぐほどの大大大失態を。
「くすくす」と「ざわざわ」のあと、すぐに式典は再開し、何事も無かったかのように進んだものの、僕は気が気ではない。
やってしまった。社会人になって最初の登竜門で。止まらない冷や汗。
眠気は当の昔に置き去りにして、ギラギラに輝く瞳で、一切の瞬きすらせず式典を見送ることとなった。
幸いなことに式の後に個別でとがめられるようなことは無かった。
後日談ではあるが、会社に入って最初のイベントだけあって、僕の名前と寝落ちしていた事実を結びつける同僚はいなかった。
新人研修のとき、同期とのふとした会話の中で「あ、あれキミのことだったの?」と言われたことが、それを物語っていた。
入社式を終えた後、これもまた長い歴史をかけてスケジュールが決まっていたのだろう。
(ほとんど強制に)名も知らぬ地銀の銀行口座を作らせ、持ち株会に勧誘され(これは入らなかった)、労働組合に加入させられた。
10日間の研修の拠点は地元のビジネスホテルで、部屋のランクは下の中くらいか。
狭い部屋、最低限の機能、薄い壁。さすがに一人部屋を用意してもらったようだ。
洗濯物はホテルの共同コイン式洗濯機で洗っていた記憶がある。
ご飯は…あまり美味しくはなかった。
朝は会社の研修室に集まり、2クラスに分かれて研修が始まる。
研修は座学が中心で、名刺の交換方法、お辞儀の角度(やたら練習させられたが、実戦で意識したことがないから、接客業などでなければ辞めたほうが良いと思う…)、電話機の使い方、会社の歴史、自社製品の魅力、工場見学など、十分なほどに知識を詰め込まれた。
9日目など、時間が余って延々と電話対応の練習をさせられていた。これから自分が二度と話さないであろう多くの同僚とともに営業電話の即興コントを繰り広げていた。
講師からしても10日間の研修内容を練ることが難しいのだろう。
そして遂に10日間の研修が終わり、いよいよ配属の発表である。
期待と不安で心臓がバクバクする中、一人ずつ人事に呼ばれ、配属先の書かれた紙を受け取っていった。
いよいよ僕の番。
渡された紙を読む。これは…なんだ?
そこに書かれていた文字は確かこんなだった。
「営業推進部営業推進課長付」