#7 配属決まる
会社の入社式が始まる少し前、合格者が一堂に会した説明会に話は遡る。
人事部長、人事課長と面談を行い、希望の部署を聞かれていた。
君の希望の部署と希望の勤務地はありますか?
「私の希望部署は金取引部で、希望勤務地は東京です」
「そうですか、わかりました。例年うちの会社はあるルールに沿って配属が決まります。希望部署が叶わない場合は希望勤務地が、希望勤務地が叶わない場合は希望部署が叶えられるようになっています。初回の配属なので、十分に配慮ができるようそのような仕組みとなっています」
なるほど納得のルールだ。
全国展開の会社にとって人事の決め方は特に難しい問題である。
会社からしてみると、若手には積極的に全国に散らばってもらい、親元を離れ、精神力を鍛え、キャリアを積んでほしいのだろう。
例えば希望ではない大阪に行ってもらう代わりに、希望の部署に就けてあげる。
あるいは、不人気部署に行ってもらう代わりに、東京で働かせてあげるよ、と。
公平で納得感のある人事に、このときはブラック企業の面影は感じられなかった。
もともと全国配属はやむを得ないと考えて入社するのだから、このルールはむしろ願ったり叶ったりであった。
僕の希望は東京の金取引部であった。
20年間東京で暮らしてきた僕にとって、東京を離れることを想像だにしていなかった。
親しい友人も何もかもが東京に置いてある。
東京以外の選択肢などつゆほども考えていなかった。
そのためには自分が優秀であると示さなければならない。
そのための努力は怠らなかった。大丈夫。
逆に絶対に配属されたくない部署もあった。
少し前に話をしたが、鉄スクラップ取引部である。
ゴミみたいな商材を得意先に売り込むことも嫌だったが、工場関係者が口をそろえて「大鉄(大阪鉄スクラップ)は取引先が良くない」とつげてきたからだ。
一人ずつ順番に呼ばれていく同僚たち。
刻一刻と僕の出番は近づいていく。
バクンバクン。今でも鮮明に覚えている。
人生で一番集中していたかもしれない。
■■さん。東京営業所。銀取引部。
▲▲さん。大阪営業所。銅取引部。
●●さん(僕の名前)。大阪営業所。鉄スクラップ取引部。