#1 夜行バス~入社式

都内某所深夜。大型バスに乗り込むスーツ姿の若者たち。その中に当時の僕もいた。

素性も知らない人達とバスにすし詰めにされ、半日間も揺られることを考えるとすでにうんざりしていた。

 

僕が新卒で就職した会社は、例年入社式の前日に社員を集め、本社工場のある東北へバスで運び、入社式へ出席させる。

入社式の後は、10日間の新人研修を経て、全国に配属される。今回も例に漏れずその一連の儀式が執り行われた。

 

新卒初めての会社には期待より不安が圧倒的に大きかった。会社名をネットで検索すると、予測変換で「ブラック企業」と表示される会社だったからだ。

ネットの普及に伴い、ブラック企業は徐々に世間に認知され始めたころの話だ。

インターンやOB訪問などに無関心だった就職感度の低い僕にとって、通信や電気などインフラ系の会社に就職したいという夢は、エントリーシートがことごとく通らない事実を突き付けられたことで泡と消え、数打ちゃ当たる方式で有象無象の企業にエントリーするようになったことは当然の帰結であった、と今になっては思う。

何社かの内定はもらったものの、会社が大企業であること、知名度が高いこと、業績は安定していることを加味し、苦渋の決断でブラック企業に進むことを決めた。

ちなみに就職することになった会社が「ブラック」であることを認識したのは最終面接少し前の話だったと思う。

企業研究などロクにせず、安易にエントリーしていったことがここから読み取れる。

 

大勢の若者を乗せたバスは、人事社員の出発のアナウンスと共に緩やかに東に向けて移動を開始し、翌朝までの道中をゆっくり走っていた。

見ず知らずの隣席の同期の顔など今となっては覚えていない。社内の会話は異様に少なく、しんとした車内からはエンジン音がむなしく響き渡っていた。

途中、トイレ休憩を何回か挟み、目的地の本社及び工場に着いたのは翌朝の8:30くらいだったか。

バスの揺れと体の痛みと緊張でほとんど寝ることができなかった僕は疲労困憊で睡魔と必至に戦っていた。

この眠気が人生最大級の失敗に繋がることを僕はまだ知らない。

 

入社式が始まった。

印象に残らない長々とした退屈でつまらない挨拶を、人を変え、話を変え、延々と聞かされていた記憶しかない。校長先生の話しかり、とかく偉い人は語りたい性なのだ。

マスコミ業界などでは著名人を招いた感動の講演をする企業もあるが、そんなものはもちろんなく、淡々と、時間の経過が0.5倍速に感じるほどゆっくり…ゆっくり過 ぎ て  い  く…

 

 

 

「起きろ!!!!!!!!!!」

 

 

やってしまった…