#24 謎の営業部

広域営業課。広域は広いエリアという意味だと勘違いしていたが、そういう意味では無かった。

通常、我々は塊として加工された鉄を鉄の加工業者に卸すのが仕事だ。
だが広域営業課の仕事はそうではなかった。
僕らの得意先は車会社や鉄道会社など、すでに加工された鉄を納める末端ユーザーへの営業だったのだ。

普段は加工業者に納品している僕らが、例えば車の製造会社に営業に行くようなものだ。

車の製造会社は我々が作る鉄の塊がほしいわけではなく、ある程度加工され、自動車の形に近くなった鉄がほしいわけで、加工業者から購入するのが普通である。先方は当然そんなもの要りませんとなる。

しかし、広域営業ではここが肝のようで、こんなうたい文句を言う。
「鉄の加工業者から購入すると、加工業者が不当に工賃を上乗せするかもしれませんよ。そうならないように、御社に一度鉄を買い取ってもらい、それを加工業者に売ってください。そうすれば不当に上乗せできた工賃が丸分かりになるから、加工業者も吹っかけることができないですよ。その工賃分を折半して一緒に儲けましょう」と。

今の説明は話を単純化したので、言っていることはなんとなく理解してもらえると思うのだが、その話に市況価格や計算式などを当てはめると話はもっと複雑になる。

驚くことに、僕はここに配属されてから会社を去るまで遂にこのスキームを覚えることができなかった。(今もわからない)
僕も最初は覚えようと必至だったが、周りは僕のことを好意的には捉えていないようで、僕に仕事を教えてくれるような社員もいなかった。この時点で周りの営業からも浮いた存在になっていたと思う。

僕がいままでやったことのある営業はルート営業と言い、すでに顧客となった会社に通い、品質の話、競合他社の話、新商品の話などを収集して次の売上に繋げることだったが、今度の営業は全く別で、ほとんどが新規の会社であった。

一度も商品を買ってもらったことがない客に会いに行き、スキームを買ってくれませんか?と提案し、市況の話をする。客にとっても大口の取引となるため、そう簡単には購入できず、今は様子見だから、とりあえずまた来てください。と、やんわり断られる。

これは本当の話、約半年ほどこの仕事をしたが、新規販売はゼロ。(他の営業員もほとんどゼロ)もはや自分がなんで得意先に通うかも分からず苦痛でしょうがなかった。

この商売の複雑さも僕を疲弊させる要因の一つであったが、もう一つ、僕が会社を去る決定打になった出来事があった。