#6 初めての退職者

同期の女性社員が忽然と消えた。

これはホラーというわけではない。予告なしに会社を辞めたのだ。

 

朝、いつもの様に研修室に出席した。

同期の女性社員達がざわざわしている。

聞くと同期の一人である女性社員が辞めたとのこと。

不義理な人事と、田舎町にうんざりして辞めたそうだが、本当にいきなり、同期に挨拶もせず消えてしまった。

彼女はこのタイミングで会社を見限り、あるいは両親から何か助言をもらったのかもしれない。さっさと会社を去って次に気持ちを切り替えたのであろう。

第二新卒という言葉があるとおり、大学さえきちんと卒業していればやり直しはいくらでもきく。もちろん少し早すぎるように感じたが、ある意味で賢いと感じた。

 

僕はこの出来事に驚いたが、その後の状況に強い違和感を覚えた。

若手人事は同期の話に一切触れず、いつもの様に講義を開始したのだ。

ちょっと待て、このまま何の説明もないのか?そう思ったが、ついぞ彼女の話が出てくることは無かった。

この出来事でますます会社への不信感は強まることになった。

 

この3ヵ月の体験を今振り返ってみると、良いこともあった。

大学を卒業してもなお、モラトリアム(働くまでの猶予期間)が継続した。

基本的に仕事は研修だけ。研修をきちんと受けていれば誰にも文句は言われない。

休みの日に同期と町を散策し、集まってモンハンをし、プチ旅行やドライブにも行った。

とても3ヵ月とは思えないほど濃い体験となった。と今になって思う。

 

研修中の僕の成績を表すエピソードが二つある。

一つはレポート課題である。

自分が興味を持つ金属について調べ、調べた情報をどう仕事に活かすのかを、1~2週間で考えるという課題だ。

僕は志望が金取引部であったため、休みの日に図書館へ赴き金について徹底的に調べた。

金の加工方法と加工する機械・道具などを調べあげ、自分はこういった知識を持っていることで、取引先への提案や交渉を行うことができるといったレポートだった。

そのときに研修を担当した講師も、興味深い内容だったのか、「細かいところまで調べ上げています」との総評を受けた記憶がある。

周りのレポートを見させてもらったが、自分が頭一つ抜けていたことは覚えている。

 

もう一つ、座学に関するテストの成績も良かった。40人すべての点数を知らないが、自分が知る限り上から二番目だったと記憶している。

持てる力をすべて出し切り、あとは配属を待つばかり。

まさに人事を尽くして…という状態であった。

 

そしていよいよ配属先の発表が来た。