#13 初配属の裏で起きていたこと

初めての配属が東京であったらどうなっていただろうと考えることがしばしばある。
あくまでもifの話なのだが、営業成績は置いておいて、相当な熱量を持って仕事に取り組んでいたのではないかと妄想することがある。

前段でもお話ししたが、研修では真面目な勤務態度と、テストの成績も良かった。
研修開始の30分前には席に着き、最前列でメモを取り、熱心に座学を学んでいた。
本望の営業部では無くとも、東京にさえ帰ることができていれば、目覚ましい活躍を見せていた可能性があったかもしれない。

余談ではあるが、もう一つ僕の人物像についてのエピソードがある。

僕が一番行きたくなかった鉄スクラップ部門であるが、実は会社を代表する営業部で、とてつもない利益を出していた。
僕が入社した年の最初の人事異動をぐるぐるにかき乱した前述の副社長は、何を隠そう鉄スクラップで鍛え抜かれ、営業のトップに上り詰めた人物であったのだ。
そのこともあり、営業部間の力関係で優位に立っていた鉄スクラップは、新入社員の采配についても一定の人事権を持っていたらしい。
優秀な社員を見極め、鉄スクラップに持ってくるように。と。そして白羽の矢が立ったのが僕であったのだという。

なぜ僕がこんなことを知っているのかというと、長宗我部先輩に聞いたからだ。
長宗我部先輩は中途採用で、僕より早く会社に入社したのだが、新入社員と同じ研修は受けていなかったため、実は少しの間、僕らと一緒に工場を回ったりしたことがあったのである。

長宗我部先輩に与えられたタスクは大きく二つあった。
一つは新入社員に負けない知識を短期間で身に着けてくること。
そしてもう一つは「優秀な社員をピックアップしてくること」だったらしい。
どこまで長宗我部先輩の影響力があったのかは不明だが、僕のことを課長に報告したと言っていた。

そう、つまり僕は会社の収益源の部署に配属になったと共に、そこの社員から一本釣りされたのだ。
言い換えると、僕はめちゃくちゃ期待されていたのだ。
そして、今となっては本当に申し訳ないのだが、結果的にみんなの期待を見事に裏切ることになってしまったのである。
上々の成績を納めている部署で華々しくスタートする可能性があった営業員としての生活。千載一遇のチャンスが転がっていたにも関わらず、理不尽な人事と恨みがましい自分の性格がそのチャンスを棒に振ってしまったというわけだ。

僕を一本釣りした長宗我部先輩は笑顔でそのエピソードを話してくれたが、僕としては内心余計なことをしてくれたなと、怒りすら沸いて聞いていた。