#8 副社長の陰謀

大阪営業所!鉄スクラップ取引部!
オオテツ…!?

 

めのまえがまっくらになった。
ポケモンの話ではない。
本当に目の前が真っ暗になって何も考えられなかったのだ。
頭の中はナンデドウシテの洪水が起こり、しばらく頭の整理が出来なかった。
その後に続く同期のアナウンスも全く入ってこない。

 

これは何かおかしなことが起こっている。
だって希望の部署か勤務地を叶えてくれるはずだったよね?んん?違うの?何か勘違いした?いやいや、なにかの間違い!!?
パニックの僕に追い打ちをかけるように、更に不可解なことが起きる。
受け取った内示をよく見ると、東京営業部鉄スクラップ取引部と書いてあるではないか。

 

オオテツ?
トウテツ?

 

いったいどうなっているんだ。何か悪い夢でも見ているのだろうか。
すぐさま人事に確認したところ、あちゃーという顔と共に僕が確かに「オオテツ」であることを告げられ、最後の望みは絶たれた。

 

不可解なことが一度ならず二度まで起き、人事社員に問い詰めた。
なぜ、自分の配属先が間違えて印字されてしまったのか、さすがにこれはおかしいだろうと。
人事社員から出てきた言葉を要約すると概ねこのような回答であった。

 

実は、今年は例年と全く違った人事になってしまった。関西で採用が決まった社員は関東へ、関東で採用が決まった社員は関西へ、それぞれ配属されることになった
これには副社長が関わっている。つい先日、人事発表を直前に控えた日、会社の副社長がやってきて内示の内容を確認し、そして激怒した。
こんなお人よし人事では社員が育たない!自分が生まれた環境とは全く違った環境に放り込んでこそ、強靭なメンタルが鍛えられるのだと。
そのため、人事は急な方針転換を余儀なくされ、カチッとはまったパズルを一から組み立て直すこととなったのだ。僕の渡された紙に書かれた配属先が東京であったのも納得がいく。おそらく、書き直している間に前のものが混ざってしまったのだろう。

 

この一連の流れを見て皆さんはどう思っただろうか?
「そんな話本当にあるのか?」
「話を面白くするために嘘をついているのではないか?」
こう思う人がいるかもしれない。が、これはまぎれもない事実なのだ。うちの会社はこういう会社だったのだ。僕だって、これが嘘であればどんなに良かったことか。
そしてことごとく関東出身の同期は関西に配属され、自分以外にも同じ境遇となった多くの同期を見て多少は救われた。