#5 厄介な隣人

ある日、研修でクタクタになった体を休めるため、早々にテレビを消し、床に就くと、女性の喘ぎ声が聞こえてきた。

「あん…ああん」

「いやっ…いやああー」

テレビから聞こえるエチエチ音源が大音量で聞こえてきたのだ。

たまにあるくらいなら良いのだが、ほぼ毎日、しかも就寝時間にひたすらこの音である。

音は1~2時間続くこともあり、ほとんど毎日、深夜の決まった時間に見ているようで、見ながら寝落ちしていたのではないだろうか。

会社寮には様々な人種が住んでおり、後で判ったことだが、僕の隣人は工場のラインと呼ばれる三交代制で働く工場人員であった。

ライン人員は不規則なシフトのため、朝に寝る人もいれば昼に寝る人もおり、隣人は夜型の生活を生業としているようであった。

管理人に訴えて控えてもらうことも考えたが、一応は先輩社員だし、AVの音量を下げてくれというのも、気が引けた。

結局僕はこの惨状を訴えることなく泣き寝入りし、日々眠れない夜を過ごすことになった。

 

3ヵ月の研修が決まった後、すぐさま近くの(と言っても寮から歩いて15分位だろうか)ホームセンターと家電量販店に赴き、新生活に必要な物資を購入することになった。

まさか研修で訪れた地でテレビと自転車を購入するとは思わなかった。その他細々とした物品を購入し、寮に戻った。

布団は確か東京に住んでいる親に送ってもらったと思う。

 

朝は前日に購入していたコンビニおにぎりを食べ、寮から10分ほどの会社研修室に出席する。

数100ページに及ぶ分厚い会社の研修資料を開き、金や銀の採掘の歴史や産地などの雑学と、工場見学を行い金属が加工される工程を事細かく叩き込まれた。

人事職員が講師となる研修に限界が来たのだろう、このあたりから工場の課長や係長が講師として派遣され、現場ならではの実体験や営業との調整などについて語ってくれた。

夜は寮の食堂で脂っこい定食をよく食べていた記憶がある。

 

人事課長にこんなことを言われていた。

これから3ヵ月の研修態度やテストの点数を考慮して配属先を決定する。当然優秀な人ほど希望の部署に配属される可能性が高いので、精進するように。

この言葉は僕の希望であり、自分が希望する東京の金取引部に絶対になってやる!という強い意思を前面に出し、研修室の先頭で時には頷き、時には感心したりして研修を受けていた。そんな日々が続いた。

 

そして、この時が来た。忘れもせぬ6月のことである。

同期の女性社員が忽然と消えた。